はじめに
プロジェクト要件定義書(PRD)は、AIコーディングプロジェクトを成功に導く最も重要な文書です。適切に作成されたPRDは、開発チーム全体の羅針盤となり、プロジェクトの方向性を明確にします。
PRDの8つの必須要素
1. プロジェクト概要(Project Overview)
目的: プロジェクトの存在意義を明確化する
- ビジョンステートメント:なぜこのプロジェクトが必要なのか
- 解決する課題:具体的にどんな問題を解決するのか
- 成功指標(KPI):何をもって成功とするのか
- スコープ定義:何を作り、何を作らないのか
2. 技術スタック(Technology Stack)
目的: 技術的な基盤を事前に決定する
- 開発言語・フレームワーク:Python/TensorFlow、JavaScript/React等の選定理由
- AIモデル・アーキテクチャ:使用するモデル(GPT、BERT等)とその根拠
- インフラ構成:AWS、GCP、Azure等のサービス選定と構成図
- 開発環境・ツール:Git、Docker、CI/CDパイプライン等
3. ユーザーフロー(User Flow)
目的: エンドユーザーの体験を可視化する
- ユーザーペルソナ:誰が使うのか(属性、スキルレベル、ニーズ)
- ユーザージャーニーマップ:タッチポイントごとの体験設計
- フローチャート:各機能の操作フローを図解
- エッジケース対応:想定外の操作への対処方法
4. 中核機能(Core Features)
目的: 開発の優先順位を明確にする
- MVP(最小限の機能):最初にリリースすべき機能
- フェーズ分け:段階的な機能追加計画
- AI機能の詳細:
- 入力データの形式と前処理
- 推論プロセスの説明
- 出力形式と後処理
- 精度目標と評価指標
5. UI/UX詳細(UI/UX Details)
目的: 一貫性のあるユーザー体験を設計する
- デザインシステム:カラーパレット、タイポグラフィ、コンポーネント規則
- 画面設計:
- ワイヤーフレーム(構造)
- モックアップ(見た目)
- プロトタイプ(動作)
- レスポンシブ対応:デバイス別の表示仕様
- アクセシビリティ基準:WCAG準拠レベル
6. バックエンドアーキテクチャ(Backend Architecture)
目的: 堅牢なシステム基盤を構築する
- システム構成図:マイクロサービス、モノリシック等のアーキテクチャ選択
- データベース設計:
- ER図(エンティティ関係図)
- テーブル定義書
- インデックス戦略
- API仕様:
- RESTful/GraphQLの選択
- エンドポイント一覧
- リクエスト/レスポンス形式
- 認証・認可方式
- データパイプライン:ETL処理、リアルタイム処理の設計
7. セキュリティ・プライバシー要件(Security & Privacy Requirements)
目的: データとシステムを適切に保護する
- データ保護:
- 暗号化方式(保存時・通信時)
- 個人情報の匿名化・仮名化
- データ保持期間とパージポリシー
- アクセス制御:
- 認証方式(OAuth、JWT等)
- 権限管理(RBAC等)
- 監査ログの設計
- AI固有のセキュリティ:
- モデルの改ざん防止
- 敵対的攻撃への対策
- バイアス検出と軽減策
8. コンプライアンス・倫理指針(Compliance & Ethics Guidelines)
目的: 法的・倫理的リスクを回避する
- 適用法規:
- GDPR(EU)、個人情報保護法(日本)等
- 業界固有の規制(医療、金融等)
- AI倫理原則:
- 透明性:AIの判断根拠の説明可能性
- 公平性:バイアスの検出と是正
- 責任性:AIの判断に対する責任の所在
- 品質保証基準:
- テスト計画(単体、結合、E2E)
- パフォーマンス基準
- 監視・アラート体制
まとめ
優れたPRDは、単なる文書ではなく、プロジェクトチーム全体にとっての「道しるべ」となります。定期的に見直し、更新することで、変化する要求にも柔軟に対応できます。PRDの作成に時間をかけることは、後々の手戻りを防ぎ、結果的にプロジェクトの成功確率を大幅に高めます。
効果的なPRDは、まさに羅針盤のように、プロジェクトが荒波に揉まれても、チーム全員が同じ目的地に向かって進むことを可能にします。